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今年のクリスマス

記・小原明子

 今年もクリスマスが近づいてきた。真夏に迎える暑いクリスマスだ。日本で生まれ育った私は、クリスマスは寒い冬のものだと思っていたから、汗をダラダラと流しながら迎えるクリスマスもあるのだと言うことを、ブラジルに来て始めて知った。

 毎年かかさず催されて来た「ユバのクリスマスの集い」。今年も、バレエ、合唱、器楽演奏、劇と盛りだくさんのプログラムが用意されている。劇は、チャールズ・ディケンズ原作、矢崎正勝の脚色演出で「クリスマス・キャロル」を上演することになった。
 音楽は、一昨年ユバで始めてのオリジナル創作劇、「風と少女」を上演した折りに、音楽制作をして下さった、神代充史さんが再び担当して下さることになった。 しかし、神代さんは日本にお住まいなので、前回同様、連日Eメールでの打ち合わせ。コンピューターを駆使しての制作が始まっている。

 出演者は総勢四十名で、ユバの半数以上の人達が舞台に上がることになり、配役も決まって九月十一日に第一回の本読み稽古が始まった。
 近年上演してきた劇は、歌あり、踊りありのミュージカル形式のものが多く、大人でも楽しめるものではあったが、どちらかと言えば子供達を対象にしたもので、出演者も子供達が中心になっていた。しかし、今年は久々のストレートプレーだ。ミュージカルでは、脇に回って子供達を支えていた大人達の出番である。ベテラン役者達も久しぶりの長台詞に大分苦労しているようだ。何よりも芝居の好きな、今年八十才を迎えたクマさんこと、滝本克夫さんも、片時も台本を離さず鶏の世話をしている。今回は出番の少ない子供達、「何だ、これだけしかしゃべらないんか。」と少々不満のようだ。ついこの間まで幼かった少年が、いつの間にか青年になって、ベテラン達相手に演じているのは頼もしい限りだ。この、クリスマスキャロルは、五十数年前に一度上演したことがある。その当時の役者は皆亡くなってしまったが、今出演している何人かが、その時のことを覚えていて、「三つか四つだったと思うけど、鎖を身体に巻き付けたおじいさんが出てきてすごく怖かった。あれがクリスマス・キャロルだったんね。」と話している。

ユバ劇場の回り舞台

 この劇は、次から次へと場面が変わるが、転換は出来るだけ速くしなくてはならない。演出担当の矢崎君は、前からユバの劇場で回り舞台を使ってみたいと考えていた。それを今回の劇で使ってみようと思い立ったのだが、果たしてそんな大がかりのものを作ることが出来るだろうか、と思い悩んだ。
そのことを大道具係の一人である、熊本君に相談した。彼は、「大変でもやった方がいいんじゃないですか。」と即座に応え、こつこつと作り始めた。普通の劇場にある回り舞台は、舞台中央が回転、上下するだけだが、ユバの物は回るだけではなく前後左右に移動することも出来る優れものである。これで確かに場面転換は早くなるだろうが、クリスマスには劇だけをやるわけではない。前述のように様々な催しがあり、おまけに今年は子供達のオーケストラまである。五メートル四方のキャスター付き台車なんてどこに収納できるのか。ユバの舞台は、間口十メートル、奥行き十二メートルで、小劇場としては広く使いやすい物だが、建物の構造上、袖は狭く、とてもそんな余裕はない。一体どうするのだろうかと心配していたが、熊本君は、上手袖の壁をぶち抜き、床を張りだし、屋根を作り小屋のような収納場所を作ってしまった。ユバの舞台ならではの臨機応変の技である。
 十一月、十二月は、ゴヤバやマンゴー収穫の最盛期で、一年中で一番農作業が忙しくなる時期だ。いつもながら、寸暇を惜しんでクリスマスの準備に追われる、ユバの今日この頃である。


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