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バレエを考える

熊本 早(16歳)

レッスン風景。写真中央が熊本早さん  私は、バレエが好きです。だからといって踊るポーズがかっこよく決まるわけでもなければ、気持ちを特別うまく表現できるわけでもありません。しかも、体は固く、背は低く、足は太くて短いし、腕は男並にごつくて、お尻は真四角。こんな、バレリーナとはほど遠い体型に生まれた自分が、バレエに向いていると思ったことなど全くありません。  でも、なぜか気持ちだけは、誰にも負けないくらいバレエが好きなのです。それはきっと、私が弓場農場に生まれ、物心もつかないうちから大きいお姉さんたちのレッスンを見たり、ユバに住むたくさんの人たちと一緒に踊ったりして育ったため、自然に身体にしみついていったものなのだと思います。

 弓場農場では、バレエは生活の一部です。そのバレエを、私のように好きな者もいれば、当然嫌いな者もいます。特に小さな子供から十四才くらいまでの子供たちは、レッスンが大っきらいな者がほとんどです。
 そんな子供たちでも、楽しい地方(外部)公演が決まると、普段はレッスンをさぼりがちな子でも次第に張り切りだし、終いには一人前のダンサーのようになってしまうことには全く驚かされます。

 さらにすごいと思うのは、大人の男性たちです。男の人はあまりバレエは踊りませんが、舞台にはよく出演します。「祈り、働き、芸術する」ということが中心の弓場農場では、労働をテーマにした踊りもあります。その中で働く人を演じるのが男の人なのですが、長年の舞台の経験から、彼らは本番前の二、三回の練習だけで、まるでいつも練習をしているかのように堂々と活躍してしまうのです。
 また、本番の日に野球の試合が重なることもあり、試合後にビールを飲んで帰ってくることもありますが、それでも舞台に立てば、疲れていようと酔っていようと、皆と変わらない一人の役者になってしまう、というところは本当に感心してしまいます。

 こういう風に、いろんな人たちが混じり合って出来上がるのがユバのバレエなのです。一人一人を見れば頼りないところはたくさんありますが、子供からおじいちゃんまでが心を一つにして踊るからこそ、観客や踊っている人自身が楽しめる舞台になるのだと思っています。

 そんな楽しいバレエ団にいて、私はこの頃不安になることがあります。それは、私と同じ年ぐらいの若者たちが、毎年メンバーから抜けていくことです。それぞれが、自分の夢を追って社会へと出ていくその姿は、社会に対して特に夢のない私には、かっこよくも、うらやましくも思えます。

 でも、それと同時に「これからのユバのバレエはどうなってしまうんだろう。」という思いによく悩まされるのです。若者が減るたびに大きかったかたまりの一部が、その分欠けてしまうように思え、いつかはその形さえもなくなってしまうのではないかと不安になるのです。

 でも、皆の心が一つになって、いろんな人たちと喜びを分かち合えることを教えてくれたバレエ。それは、これからも私たちになくてはならない大切なものだと思っています。
 そのことを、これからの子供たちにうまく伝えることによって、ユバのバレエはまた、多くの人たちにもその喜びを伝えていけるのだと信じて頑張りたいと思います。


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