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日本人の目から


木暮由香 日本人には説明しにくいユバ

木暮由香

 わたしは日本ブラジル交流協会の研修生で、ユバの日本語学校教師として来ました。この周辺ではミランドポリス市に富山県の高岡市から、第一アリアンサにはJICA(国際協力事業団)から、第二アリアンサには鳥取県から、第三アリアンサには富山県から、日本語教師が派遣されています。ユバで担当している子どもは二十名です。
 一般の日系人の子どもと違って、ユバの子どもは日常的に日本語が話せるから、与える教材もむつかしいですね。ただ日本の教科書を読ませて、漢字を書かせるだけじゃ子供たちはあんまりおもしろくないようです。だから教科書にないものをやらせたいと思ってます。小さい子たちにはゲームなども取り入れ、楽しくやらせたいですね。
 日本でもそうですけど、思春期の子どもはむつかしいですね。「わたしたちはブラジル人なのに日本語を勉強してどうするの?」って子どももいます。
 わたしは群馬県の田舎育ちですから、日本の田舎からブラジルの田舎へ直接来たという感じで違和感はありません。ここへ来て思うのは、ここの人たちが本当に生活を楽しんでるのを見て、とてもうらやましいです。日本の農村ももう少し余裕があってもいいんじゃないかと思います。
 わたしは白樺派の文学が好きで、武者小路実篤の新しい村にも関心を持っていました。だからユバ農場の姿にはとても興味があります。だけど、日本人にユバのことをどう説明したらいいのかとてもむつかしいですね。友人にユバの話をすると、宗教団体? なんてよく言われます。今の日本人には、あまりにストレートで人間らしい生活は、信じられないのかもしれませんね。(談話取材・木村美智子)


氏家大樹 この人たちやっぱりブラジル人なんだ

氏家大樹

 ここに来てまだ二週間ちょっとです。最初の一週間はまったく体が動きませんでした。起きて、必死に仕事についていって、ご飯を食べたらバタンキューです。夜、食堂でみんなが楽しそうに酒を飲んでるのは知ってたけど、とてもとてもでした。べつに働いてくれって言われたわけじゃないけど、ご飯を食べさせて貰う以上やっぱり仕事をしなくてはと思ってね。
 草取り、マンガやゴヤバ(いずれもブラジル特有の果実)の採集、乳搾りとかいろいろやらせてもらうんだけど、まったく役に立ちません。草取りしてても、果てしない仕事で、早く迎えのトラクターが来ないかななんて思っちゃう。もちろん日本では農作業なんかやったことはありません。でも一度やってみたいと思っていました。ここのとこ、やっとなんとか動けるようになりました。やっぱり体を鍛えたいなと思いますね。
 ぼくはパラグアイを抜けて、直接ここへ来たから、ほかの日系人たちと比較は出来ません。だから、はじめはブラジルの日系人って、こんな生活をしてるんだと思ってました。でも、ユバってほんとうに不思議なとこですね。みんな凄く陽気で、よく働きますしね。
 一昨日、サンパウロから日本領事館の文化担当領事さんが来られて、バレエの上演があったんだけど、あれを見て、もうびっくりしました。何だ、この人たちは! これは凄いなと思いました。バレエと言ってもぼくらが知ってる抽象的な踊りじゃないでしょう? 実際の農作業から生まれたものをやってるから、凄い迫力でね。とにかく凄い。
 それからはね、草取りしてても、ああ、これは芸術なんだって(笑い)。流れる汗も芸術なんだって感動してる。
 あんな労働をして、ぼくなんか、「ああ、やっと終わったな」と思うわけだけど、あの人たちはそれからバレエのレッスンとか合唱の練習をするわけでしょう? それがもう四十年も続いてるって言うんだから、もうなんかよくわからないけど感動しちゃって、小原先生のとこへ行って、裏方でも何でもいいから何か手伝わせてくださいって頼みました。今、みんなクリスマスに上演する「キバのないオオカミ」(日本の音楽劇)の稽古をしてるから、それまでここにいて手伝おうと思ってます。
 ここにいると日本語の生活だから、ブラジル人を意識することはなかったけど、この前、イサム(矢崎勇)さんについてスーパーに果物を届けに行ったんです。するとね、ぼくのことを「日本人が来た」ってほかの売り場の人たちもやってきて珍しそうに見るんですよ。イサムさんとぼくとは年も同じくらいだし、同じ日本人らしい顔をしてるのに、彼らから見ると凄く違うらしいんですよ。何なんでしょうね。こんな田舎までは日本人は来ませんからね。
 数日前、日系の子どもたちが農場を見学に来たんです。彼ら同士が喋る言葉はポルトガル語でしょ。やっぱり不思議な気がしますよね。「ワールドカップの時は日本とブラジルとどっちを応援するの?」って聞いたら、あきれた顔をして「ブラジルに決まってる」って。
 最初はみんな日本人だと思ってたけど、ここの人たちはやっぱりブラジル人なんだと思いました。ぼくたちはそうした目に見えない文化の違いにはなかなか気がつかないんですよね。

 氏家さんは立命館大学で国際関係学を学ぶ学生さん。ペルーからパラグアイを抜けて、直接ユバ農場へやってきた。真っ黒になってユバの若者たちと一緒に働いている。外から見てるととても見分けはつかない。ユバの人たちによると、最近の日本人学生には珍しく素直な人との評。(談話取材・木村美智子)


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