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素晴らしき田舎

渡辺久洋

渡辺久洋

渡辺久洋(わたなべ・ひさひろ)
一九七四年六月十日、富山県生まれ(本籍・愛知県名古屋市)。大阪大学工学部応用生物工学科卒。一九九八年、タック外語学院(一年制)卒業後同校の日本語非常勤講師を務める。一九九九年四月十日着伯。JICA青年ボランティアとして(二年間)第一アリアンサ日本語学校教師となる。

 ブラジルに来て早一年四ヶ月。僕はここ第一アリアンサの日本語学校の先生をしている二十六歳。
 初めてアリアンサに来たのは一九九九年四月十三日。サンパウロからアラサツーバまで飛行機で五十分。それから車で一時間。どれだけ走っても見渡す限り建物などほとんどないない風景だった。やっと着いたアリアンサ。早速教員住宅へ……
「ひぇ〜〜」 壁のそこらじゅうにクモが……。それから、大掃除が始まった。すぐに学校のアシスタントや子供三人が手伝いに来てくれた。
 片言の日本語を話し、恥ずかしそうに、でも一生懸命家の中をきれいにしてくれて何か幸せな気分になった。夜は会館に第一アリアンサ村の人達が数百人集って歓迎会を開いてくれた。これだけ大勢の人に迎えられ、驚き、緊張したことを今でも覚えている。こうして僕のアリアンサ生活が始まった。

都会化を拒否した村

 アリアンサはブラジルに数多く存在する日系人集団地の中でも特別なところだと思う。

1 まず、村の様子。周囲には色々な畑が一面に広がり昔と変わらないのどかな風景。三、四世の日本語能力の高さ。日本語、日本文化に対する意識、大事にする気持ち。他の町に行った日本語教師に聞いても、こんなところはほとんどない。
 詳しくは知らないけど、一時期アリアンサにも町にしようという話が持ち上がったことがあるそうだ。でも、村の話し合いの結果これを拒否したとのこと。日本が失われてしまうからである。
 現在の日本で、昔と変わらぬ風景を残しているところは一体どれだけあるだろう?アリアンサは七六年間も昔と変わらない姿が残っているのだ。これはブラジルでもアリアンサぐらいらしい。

2 次にその周辺の環境。第一アリアンサと言うからには当然第二、第三アリアンサがあるわけで、第一アリアンサの中には有名な弓場農場もある。これらが互いに協力し合って日系集団移住地を形成しているのである。
 それぞれに日本語学校が存在し、一つの地域に四つの日本語学校があるという他には類を見ない環境である。ブラジルの小学校は全アリアンサが一学区なのに、日本語学校は別々。毎年十一月には全アリアンサ・ピンポン大会が開かれ、さながら球技大会の様相を呈している。

村人の中で育つ子ども

 アリアンサは、はっきりいうと田舎である。それもかなりの田舎である。店などはほとんどなく、馬は道を歩き、犬は道の真ん中で我が物顔で寝、車が来ても知らん振り。鶏は勝手に庭に入りこみ、朝早く「コケコッコ―」と心地よい睡眠を妨げてくれ、何度寝ぼけ眼で石を投げに行ったことか。かえるはトイレや台所で飛び跳ねるといった始末である。
 また、車がなければどこにも行けないぐらいだだっ広い。去年、村の人が、
「僕は××の隣りに住んでいるんだ」と言ったのだが、横に家らしきものはない。
「横に建物なんかあったっけ?」と聞き返したら、
「五〇〇mぐらい離れてるけど」
 ……それって隣り? でも一年住んでると確かに隣だなと思えてしまう。
 そんなところだから当然、子供は家に帰っても自由に友達の家へ遊びに行けない。でも町の子と比べて可哀想だなとは思わない。それどころか幸せとさえ思える。週一回、夜、ピンポンの練習をしたり、一、二回野球や陸上の練習をしたり、村あげての結婚式、その他行事がたくさんある。その度に友達と会い、話したり遊んだりすることができる。たくさんの友達とにぎやかなところで遊ぶっていうのはすごい楽しいことだと思う。町には町の良さがあると思うけど、村には村の良さがある。
 日本の都会、大阪、名古屋に住んでいた僕にとってこの田舎、アリアンサはとても新鮮である。日本とは違う、でもブラジルとも違う。よく友達に「ブラジルはどう?」って聞かれるけど、僕はいつもこう答える。
「ここはアリアンサっていうところだからわからん」

母の日を迎えて、日本語の歌を合唱する日語教室の子どもたち

日本では見えないものが見える

 はっきり言うと、都会っ子と思っていた僕は第一アリアンサに派遣されると分かった時、ショックだった。現地報告書、写真を見てそのあまりにも見事な田舎ぶりに愕然とさえした。賑やかさがない!刺激がない!
 でも、一年四ヶ月住んで今だ飽きることがない。色んな新しい発見があり、常に刺激を与えつづけてくれている。ここアリアンサにいるおかげで、日本の良さ、日本文化に対する誇りなど日本について深く考えさせられた。いや、今も考えさせられる。日本が失ったものがここにはある。日本にいると見えないものを、日本に住んでいない日本人に教えられる。
 素晴らしき田舎アリアンサ!(なんて書いたらこれを読むアリアンサの人に怒られそう…)僕はほんと〜にここの生活を楽しんでいます。


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